町内に生育する植物について
植物は1,874種が確認されており、低地帯から高山帯までのさまざまな植物がみられます。
巨樹が39本確認されています。
植物相の概要

アカヤシオ
本町の植物は1,874種の記録があり、標高差が大きいため、低地帯から高山帯までのさまざまな植物がみられます。本町は植物地理学でいう「ソハヤキ地区」の東限にあたり、同地区に特有なモチツツジ、イワユキノシタ、ナベワリなどが生育しています。また、地形や人間の関わりに応じて多様な環境が成立するため、それぞれの環境に適応したものが生育し、植物相の種類も豊富です。さらに、本町は接岨峡や寸又峡といった深い谷を刻む渓谷があるため、渓谷の岩壁に生育する着生ランや渓流植物などが本町の植物相を特徴付けているといえます。

シロヤシオ
本町の観光資源であるアカヤシオとシロヤシオはツツジ科の植物で、山地帯の尾根筋の岩場などに生育します。アカヤシオは4~5月に淡い紅色の花を、シロヤシオは5月~6月上旬に白い花を咲かせ、春から初夏の山を彩ります。
なお、絶滅の可能性のある種として、アゼオトギリやカギガタアオイなど121種が確認されています。
ソハヤキ地区とは?

ソハヤキ地区とは日本の植物区系(植物相を分布的な特性をもとに分けた地区)のひとつで、第三紀(約6,000万年前)から現在まで陸地だった九州、四国、愛知県以西の本州太平洋側などを含む地区を指します。ソハヤキは「襲速紀」と書き、南九州の古名である「熊襲(くまそ)」の襲、豊予海峡をさす「速吸瀬戸(はやみずのせと)」の速、「紀伊国(きいのくに)」の紀を組み合わせた言葉です。中国大陸西南部とも関係の深い植物が多くあります。
静岡県の植物分布は、大きく分けると東部・伊豆地域の「フォッサ・マグナ地区」、中部・西部地域の「ソハヤキ地区」に分けられ、本町周辺がその東限にあたります。
生育環境別の主な植物
生育環境 | 自然植生の植物相 | 代償植生の植物相 |
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山地 | ||
高山帯 | ハイマツ低木林 ハイマツ、ハクサンシャクナゲ、タカネナナカマド、ウラジロナナカマド、コケモモ、イワカガミ、コガネイチゴ、ゴゼンタチバナ、クロウスゴ、ガンコウラン、ミヤマダイコンソウ など |
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亜高山帯 | シラビソ林など シラビソ、オオシラビソ、トウヒ、コメツガ、ナナカマド、ダケカンバ、セリバシオガマ、オサバグサ、ミヤマアオスゲ、コイチヨウラン、ヒロハユキザサ など |
伐採伐跡群落など ミヤマウラジロイチゴ、ゴヨウイチゴ、ナナカマド、ダケカンバ、ミネカエデ、オガラバナ など |
山地帯 | ツガ林、イヌブナ林、シオジ林など ツガ、モミ、ミズナラ、ブナ、イヌブナ、ヒメシャラ、アセビ、チチブドウダン、ヤマイワカガミ、ハクウンボク、サワシバ、スズタケ、コカンスゲ、サワグルミ、シオジ、カツラ、アカヤシオ、シロヤシオ など |
シデ林、ミズナラ林など アカシデ、クマシデ、イヌシデ、ミズメ、ウダイカンバ、ヤシャブシ、オノオレカンバ、アワブキ、ダンコウバイ、ウラジロノキ、ミヤマハハソ、ニシキウツギ、ノリウツギ、ミズナラ、クリ、イヌザクラ、ウワミズザクラ など |
低地帯 | モミ林、ケヤキ林など モミ、ツガ、カヤ、ウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシ、サカキ、シキミ、ミヤマシキミ、ヒイラギ、イロハモミジ、ケヤキ、クジャクシダ、アラカシ、ヤブツバキ など |
コナラ林、ススキ草地など コナラ、クヌギ、ミズキ、ヤマザクラ、ムラサキシキブ、コバノガマズミ、ヤマツツジ、ノガリヤス、タチツボスミレ、ササユリ、ススキ、ワラビ、ノコンギク など |
植林 | スギ・ヒノキ林、カラマツ林など スギ、ヒノキ、サワラ、カラマツ、モウソウチク など |
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段丘・低地 | ||
耕作地 | 茶畑、水田など チャノキ、ナズナ、ツユクサ、コハコベ、メヒシバ、スベリヒユ、コミカンソウ、イヌビエ、コナギ、オモダカ、ウリカワ、キカシグサ、タネツケバナ、セトガヤ など |
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河川 | ||
河辺自然植生 | ヤナギ高木林、ツルヨシ草地 コゴメヤナギ、イヌコリヤナギ、ノイバラ、アケビ、イタドリ、アカネ、スイバ、ヤブジラミ、ツルヨシ、ミゾソバ など |
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渓谷の岩壁 | サツキ、イワシャジン、ダイモンジソウ、ウラハグサ、ムギラン など |

コケモモ
(高山帯)

オオシラビソ
(亜高山帯)

アセビ
(山地帯)

クジャクシダ
(低地帯)

ノコンギク
(低地帯)

ツユクサ
(耕作地)
絶滅の可能性のある植物
カテゴリー区分 | 絶滅の可能性のある植物 |
---|---|
絶滅危惧1A類(CR) | ジンリョウユリ、キソエビネ、アツモリソウ |
絶滅危惧1B類(EN) | ヤマソテツ、クラガリシダ、ミョウギシダ、デンジソウ、オオヤマレンゲ、シロモジ、ヒロハヘビノボラズ、ヒツジグサ、アゼオトギリ、ミヤマスミレ、ヒメビシ、ヤマホオズキ、タカネタチイチゴツナギ、シコクヒロハテンナンショウ、タカネナルコ、ハコネラン、フジチドリ、セイタカスズムシソウ、トキソウ |
絶滅危惧2類(VU) | スギラン、タキミシダ、ナカミシシラン、ツクシヤブソテツ、タニヘゴ、イナデンダ、テバコワラビ、イワウサギシダ、サンショウモ、ミヤマツチトリモチ、オオビランジ、セツブンソウ、タマカラマツ、カギガタアオイ、エゾハタザオ、クモマナズナ、マツノハマンネングサ、ヤシャビシャク、キンロバイ、エンシュウツリフネソウ、チョウセンナニワズ、サクラスミレ、ホソバハナウド、キョウマルシャクナゲ、クモイコザクラ、コイワザクラ、シナノコザクラ、キセワタ、ヤマジノタツナミソウ、タヌキモ、ニッコウヒョウタンボク、アキノハハコグサ、ヤナギタンポポ、クモマニガナ、ヤハズトウヒレン、チャボホトトギス、カキツバタ、ヒトツバテンナンショウ、スルガスゲ、ナツエビネ、コアツモリソウ、クマガイソウ、イチヨウラン、スズムシソウ、ウチョウラン、ニョホウチドリ、ツレサギソウ、ヤマトキソウ、マツラン、モミラン、ムカデラン |
準絶滅危惧(NT) | ヤマシャクヤク、コオトギリ、キバナハナネコノメ、ミズマツバ、スズサイコ、タチキランソウ、アオホオズキ、オオヒキヨモギ、イヌノフグリ、ワタムキアザミ、イズハハコ、カワラニガナ、タカネコウリンカ、ミクリ、マメヅタラン、ムギラン、エビネ、セッコク、クロヤツシロラン |
現状不明(N-1) | ヤツガタケシノブ、アオチャセンシダ、ヤマキケマン、キンチャクスゲ |
分布上注目種(N-2) | フジイノデ、ヒメカラマツ、ミカワチャルメルソウ、トウヤクリンドウ |
部会注目種(N-3) | チチブホラゴケ、アオネカズラ、カラハナソウ、サクライラズ、ツゲ、キヨスミウツボ、ナベナ、イワシャジン、サワギキョウ、シデシャジン、ヤマアゼスゲ、アケボノシュスラン、ホザキイチヨウラン、アリドオシラン、ヒトツボクロ |
環境省レッドリストのみに掲載されている種 | オクタマシダ(VU)、ミドリアカザ(CR)、ニッケイ(NT)(注釈3)、コイヌガラシ(NT)、ハクチョウゲ(EN)(注釈3)、タカネママコナ(VU)、カワヂシャ(NT)、オナモミ(VU) |
(注釈1) カテゴリー区分は、静岡県版レッドデータブックの区分に従った。カテゴリーについての詳細は「(4)絶滅の可能性のある動植物」を参照。
(注釈2) 太字は種の解説あり。
(注釈3) 2種は栽培・逸出したものであるため、絶滅の可能性のある種の種数から除外した。
アゼオトギリ (絶滅危惧1B類)
田の畦や湿地に生育する多年草で、茎は枝を分けて地を這い、立ち上がると草丈10~40センチメートル程度になります。7~8月頃に茎と枝の先に黄色い花を咲かせます。圃場整備や湿地の開発により減少しています。
カギガタアオイ (絶滅危惧2類)
山地のやや陰湿な林内に生える多年草で、静岡県中西部と山梨県南部に分布します。柱頭の先が鉤のように曲がっていることが名前の由来です。葉は形がアオイに似て冬でも青々としており、花は落ち葉に埋もれるように咲きます。
ヤシャビシャク (絶滅危惧2類)
山地帯のブナ原生林に生育する落葉小低木で、大樹の樹幹や樹洞に着生します。和名は「夜叉柄杓」で、果実の形を夜叉(やしゃ)が持つ柄杓(ひしゃく)に見立ててつけられました。ブナ林の減少や栽培用の採取などにより少なくなっています。
スズサイコ (準絶滅危惧)
日当たりの良いやや乾いた草地に生育し、草丈40~100センチメートル程度で星型をした黄褐色の花をつけます。花は夕方から開き、翌日の朝日が当たると閉じてしまいます。草地の開発や草地の管理がされなくなり、生育地は少なくなっています。
巨樹・巨木林
巨樹・巨木林とは、長い年月生き続けてきた古い大きな木や、それらが集まってできた林のことです。この巨樹・巨木林は、わが国の樹木・森林の象徴的存在であり、良好な景観の形成や野生動物の生息環境、人々の心のよりどころとなるなど、保護すべき自然として重要です。このような巨樹・巨木林の現状を把握するための調査が全国で行われており、本町でも39本の巨樹が確認されています。
樹種 | 本数 | 樹種 | 本数 |
---|---|---|---|
イチョウ | 1 | モミ | 2 |
ウラジロモミ | 1 | スギ(注釈2) | 25 |
ブナ | 1 | ミズナラ | 1 |
シラカシ | 1 | エノキ | 1 |
ケヤキ | 4 | タブノキ | 2 |
合計 | 39 |
巨樹・巨木林位置図

資料:第4回自然環境保全基礎調査、日本の巨樹・巨木林(平成3年)など
更新日:2021年09月02日